アンキローシスという言葉を聞いたことはありませんか。矯正治療をして動かない歯がある場合、アンキローシスが原因である可能性が高いです。詳しくご紹介いたします。
アンキローシスとは
アンキローシスという言葉を日本語で訳すと、骨性癒着や歯根癒着です。その字の通り、歯と歯の下の骨(歯槽骨)が癒着して動かない状態を指します。通常は歯と歯槽骨の間に歯根膜という軟組織がありますが、アンキローシスの場合はその歯根膜が何かの原因でなくなってしまい、歯と骨が直接結合した状態になっています。矯正治療では、歯を動かすことが必要で骨の代謝が不可欠ですので、骨と歯がくっついて動けない歯があると、矯正治療中の方にとっては特に困った状態です。
歯根膜の働き
では、歯根膜について少しご紹介しましょう。歯根膜は、歯と歯槽骨をつなぎ、栄養を送るという役割だけではありません。
1.噛む衝撃を和らげるクッション的な役割
固い食べ物を思いきり噛む時には70㎏前後、睡眠中の歯ぎしりや食いしばりをしている時には約250㎏前後の大きな力が歯にかかっています。毎日このような負荷がかかると歯や歯槽骨は摩耗していきますが、少しでも衝撃を和らげるために歯根膜が歯周組織への衝撃を和らげる働きをします。
2.痛覚や触覚などの刺激を脳へ伝達する役割
歯についてのセンサーのような働きを歯根膜は行っています。食べ物についての噛み応えや、柔らかさなどを感知し、脳へと伝達します。その刺激などの情報により食事を楽しめる要素になります。
アンキローシスになる原因
アンキローシスになる原因はさまざまですが、主にこのようなことが原因と考えられます。
外傷や事故
転倒や接触やケガという外部からの強い衝撃によって、歯根膜が破壊され、骨との直接接触が起こることがあります。特に、コンタクトスポーツ(野球、ラグビー、サッカーなど)や事故などで歯を強く打った場合に発生しやすいです。
感染症
歯周病などの細菌感染が進行することで、歯根膜がダメージを受け、骨と癒着することがあります。
治療の副作用
歯科治療中に歯根膜が損傷するということもまれにあり、アンキローシスの原因となり得ます。特に、抜歯後や神経治療後、根管治療後に発生するケースがあります。
原発性萌出不全
外傷や炎症を起こしていないのに、歯が一定の長さのままで横と噛み合わないというケースがあります。非常にまれではありますが、原発性萌出不全と考えられます。この場合は、途中までは歯が生えている(萌出)のに、途中でいきなりアンキローシスになってしまった状態です。明らかに他の歯と高さが違うなと感じられたら、歯科医院へ通院してみましょう。
遺伝的な要因もアンキローシスに関連していると言われ、外的要因や内的要因のいずれによっても引き起こされる可能性があり、早期の発見と対処が重要です。
アンキローシスが日常生活へ及ぼす影響
矯正治療中の方は、歯が予定通りに動かせなければ、治療計画(通院期間や費用)に支障をきたすことがあります。特に成長期の子どもでアンキローシスになると、歯の正常な成長が妨げられます。歯への影響は下記の通りです。
噛み合わせの異常
骨に結合して固定された歯が正常に動かないため、上下の歯が適切にかみ合わなくなることがあります。これにより、食事や会話に不便を感じると考えられます。外傷により歯の変色が起きなかったけれどアンキローシスに実はなっていたということも考えられます。
アンキローシスの診断について
アンキローシスの診断には、歯科医師による専門的な検査が必要です。一般的な診断方法です。
レントゲン検査で確認
外傷や炎症によりアンキローシスが疑われる場合はレントゲン検査を使用して、歯と骨の癒着状態を確認します。通常の場合は、歯根膜の線がきっちり写っていますが、進行している場合は歯根膜の消失や骨との癒着が確認できます。
触診で歯の音や動揺を確認して診断
歯を金属で軽く叩いて音や感覚を確認するテストです。アンキローシスの場合、骨に繋がっているため通常と異なる音が聞こえます。また直接歯に触ってみて歯が揺れる(動揺)かどうかについても確認します。歯の動揺が起きない場合もその可能性があります。
アンキローシスの治療の選択肢
アンキローシスの治療は、口腔外科、口腔外科の症例が多い歯科医院で行うのがベストです。
矯正治療
矯正治療においてアンキローシスになっている歯がある場合は、程度によって事前の処置が必要です。
軽度のアンキローシス
CT検査で歯根の形状を把握した後、歯根と歯槽骨の硬さや色の違いを確認し、歯根と歯槽骨を切削器具を使って分離したうえで脱臼させます。一時的な脱臼を起こしてその接合部分を動かして、矯正を行います。ただし、歯の状態によっては、脱臼が難しい場合があります。
重度のアンキローシス
重度の場合は抜歯を行うことが最善の治療になることが多いです。通常の抜歯と異なり、歯根と骨が結合していることから、結合している骨を削ったうえで抜歯し、その後、レントゲンを撮影します。抜歯した部分の骨に歯の一部が残っていないかなどを確認する必要があるからです。その後、インプラントやブリッジによる補綴治療が行われます。
歯根膜再生治療
最近では、歯根膜を再生できる歯周組織再生療法があります。歯周組織に人工のGTR膜を入れてスペースを確保して、歯根膜の再生を待つという治療法です。これにより歯根膜が再生できれば、アンキローシスを緩和し、歯の正常な動きを取り戻す可能性が期待されています。
アンキローシスの治療はケースバイケースであり、歯槽骨の状態や患者さんごとに最適な治療法が異なるため、歯科医師とよく相談することが重要です。
アンキローシスを予防するための対策
アンキローシスは発生後の対処が難しく、予防が非常に重要です。
定期的な歯科検診
定期的に歯科医院で検診を受けていると、初期の段階で対処することができます。痛みがなくても気になる部分があればかかりつけの歯科へご相談しましょう。
外傷を避ける
スポーツや事故による外傷がアンキローシスの原因となることが多いです。コンタクトスポーツをされている方は、マウスガードを装着するなどの対策を行いましょう。マウスガードをご希望の方は、歯科医師へご相談ください。
口腔ケアの徹底
歯周病などの細菌感染を予防するために、毎日のブラッシングを欠かさず行うことが大切です。特に就寝時には唾液の分泌量が少なくなるため、ブラッシングのみではなくフロスやタフトブラシ、歯間ブラシを使用して清掃しましょう。
早期治療
歯に違和感を感じた場合や、歯が動かなくなった場合は、なるべく早く歯科医師に相談し、適切な治療を受けることが予防のカギとなります。これらの対策を実施することで、アンキローシスのリスクを大幅に減らすことができます。
まとめ
アンキローシスとは何か、原因、症状、治療法や予防策までをご案内しました。早期発見と適切な対処を行えば、日常生活への影響を最小限に抑えることが可能です。歯に異常を感じた際は、早めに専門医の診察を受け、健康な口腔環境を保ちましょう。